第46回「技術開発投資」 2015年4月23日
先日、経済の三要素(経営の三要素ではありません)について
「モノ」「ヒト」「技術」の三つであると解説しました。
特に「技術」というのは厄介で、基幹技術、基盤技術などは、投資した時点では、
「将来、実が成るかどうか」
は全く分かりません。実際、莫大なおカネが投じられたにも関わらず、
何ら「人類」に貢献することなく、忘れられた技術は山ほどあります。
代表が「錬金術」です。
卑金属から「金(きん)」を精錬するべく、莫大な金額、労力、そして時間が
投じられたわけですが、結局は金を創り出すことはできませんでした。すなわち、
錬金術への技術投資は「実が成らなかった」のです。
ところが、錬金術への技術開発投資が進む過程で、
硫酸、硝酸、塩酸など、化学物質が次々に発見されていきます。
「金を精錬する」という当初の目的は達成できなかったものの、
錬金術で自然科学は大いに発展したのです。
もちろん、錬金術の例があるからといって、技術開発投資が
「本来の目的は達成できなくても、別の新たな成果が得られる」とは限らないのです。
全く、何の実も実らせなかった技術開発投資も、過去の歴史には山ほどあります。
さて、4月21日、「山梨リニア実験線」において、超電動リニアモーターカーが
時速600キロを突破し、自らが持つ記録を更新しました。
人類が「地上」を時速600キロ超で走ったのは、史上初めてのことです。
我が国の国鉄でリニアモーターカーの研究が始まったのは、東海道新幹線すら
開業していない1962年になります。国鉄の鉄道技術研究所が、
新幹線の「次」となる次世代高速鉄道の基礎研究を開始したことに端を発しているのです。
八年後の1970年。日本の国鉄(当時)は高速鉄道講演会において、
超電導磁石を用いる磁気浮上列車の開発に着手することを正式発表しました。
まずは超電導磁石による磁気誘導反発浮上実験を実施し、磁気浮上列車の実現が確認され、
その後、国分寺市の鉄道技術研究所で220mの実験線が作られます。
1972年3月には、史上初めて上記鉄道技術研究所の
ガイドウェイ(案内軌道)に沿ってリニア走行に成功。
日本で初めて鉄道が走った1872年からちょうど百年目、我が国で
「世界初」となる超電導リニア走行に成功したことになります。
その後、山梨にリニア実験線が建設され、リニア中央新幹線の開業を
目指した有人走行の実験が繰り返されます。そして、2015年。ついに、
2027年東京-名古屋間開業を目指し、JR東海がリニア中央新幹線の工事を開始しました。
当初の「構想」から、実に半世紀以上。先人たちの「技術開発」の成果が、
2027年にようやく花開こうとしているのです。
リニア構想が始まった初期段階で、
「こんな、カネになるのか、実が成るのかどうかも分からない、超電導技術に投資するなど、ムダだ!」
と、日本国民の「誰か」が判断してしまった場合、五十年後に人類が地上で
時速600キロを経験する日は訪れなかったでしょう。
あらゆる技術開発投資、実が成らない可能性を秘めています。
それでも、過去の人々は「将来のための技術投資」を実施し、その恩恵を現代の我々が受けているわけです。
上記の現実を理解すれば、技術開発投資についてまで「事業仕分け!」「ムダの削減!」などと
やっていた過去の日本国民、あるいは現代の日本国民が、いかに愚かであるかが理解できると思うのです。
今週も最後までお読み頂き、ありがとうございました。
今思い返せば、民主党時代に日本が被った損失は、計り知れない莫大なものかも知れないですね。