第71回「抽象表現と政治」 2015年10月15日

「三橋貴明の「新」日本経済新聞」の執筆陣には、
施先生や佐藤先生など「言葉の問題」を
頻繁に取り上げる方がいらっしゃいますが、

それにしても10月10日の青木泰樹先生の
【【青木泰樹】アベノミクスは第二ステージ「3つの的(まと)」】
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/10/10/aoki-19/
は、お見事でございました。

安倍総理が自民党総裁に再任された際に言い出した
「新・三本の矢」に対する違和感が綺麗に解消しました。

名目GDP600兆円を目指す「希望を生み出す強い経済」。
出生率について1.8への上昇を目指す「夢を紡ぐ子育て支援」。
介護離職ゼロを目指す「安心につながる社会保障」。

確かに、全て射抜くべき的、つまりは目標であり、
目標を実現するための政策(=矢)ではありません。

三橋が2012年に安倍総裁(当時)を支持したのは、
総理が「デフレ脱却」という的を射抜く矢として、
「第一の矢 金融政策」「第二の矢 財政政策」「第三の矢 成長戦略(実は構造改革)」
という、具体的な手法を掲げたためです。ただし、
三本目の矢については、「言葉の定義のすり替え」が行われましたが。

金融政策は、量的緩和。しかも、インフレ目標「二年で2%」と、
目標も具体化(すでに忘れ去られているようですが)。

財政政策は、政府がおカネを使う。

成長戦略については、当初の安倍総裁は
「スーパーコンピュータ京や再生医療などのイノベーション」と、説明していました。
安倍総裁の説明を聞いたとき、三橋は、
「京の次の世代のスパコン製造や、再生医療の推進には、
 結局は政府が財政を出すしかないのだから、
 第二の矢で統一してしまえばいいのでは?」
という違和感を覚えたわけでございます。

現実の成長戦略は、ご存じの通りTPP、農協改革、発送電分離、派遣法改正、
混合医療推進、国家戦略特区、外国移民受入などに代表される構造改革でした。

金融政策と財政政策は、何を意味するかが明白で、抽象度が低い具体性に富んだ言葉です。
それに対し、成長戦略は前の二つに比べると、明らかに抽象度が高くなっています。

つまりは、後から、
「成長戦略とは、実は構造改革のことだよ」
といった「定義変更」が可能な言葉なのです。本当に、言葉は重要です。

そもそも、構造改革は「供給能力を高める政策」であり、デフレ対策ではありません。
競争激化によって生産性を高め、物価を引き下げる「インフレ対策」なのです。

抽象度が高い成長戦略を「三本目の矢」として打ち出し、
中身を「スパコン開発や再生医療推進」から「構造改革」へとすり替える、
政治的な詐欺行為が行われたわけでございます。

新・三本の矢にしても、「成長戦略」の事例を知ると腑に落ちると思いますが、
政治家が真の意味で問題を解決できるか否かは、
言葉の概念について深く考えていけば、ある程度はわかります。

やたら抽象度が高い言葉を乱用する政治家は、
「真の意味で問題を理解していないか、もしくは問題を解決する気がない」
のいずれかであると考えて、まず間違いありません。

最近、抽象表現の多用が多くなってきた安倍総理は、果たしてどちらなのでしょうか。
大変、残念なことに、「両方である」という可能性も否定できないわけでございます。

今週も最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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