第55回「定量的に効果測定可能な政策」 2015年6月25日

三橋は最近、減量目的でカロリーコントロールをしています。
摂取カロリーと、毎日の定期的な運動を含めた消費カロリーを管理し、
体重を落としていっているのです。

無論、完璧に体重をコントロールすることはできないのですが、
少なくとも「管理せずに適当にやる」あるいは
「体重が落ちることを期待する」よりは着実に減量に成功しています。

何を言いたいのかといえば、「経済政策の効果」です。

京都大学大学院工学研究科の藤井聡教授(現、内閣官房参与)のレポート
「デフレーション下での中央政府による公共事業の事業効果分析」では、
我が国の過去のデータに基づく限り、中央政府の公共事業1兆円の増加により、
名目GDPが約5兆円増加することが明らかにされています。

http://www.union-services.com/sst/sst%20data/2_57.pdf

名目GDPが拡大するのみならず、GDPデフレータや失業率、平均給与や
被生活保護者数がいずれも改善し、最終的に総税収が1.6兆円、
出生数が1.7万人増加するというシミュレート結果が出ているのです。

公共事業を追加的に1兆円実施することで、税収が1.6兆円増える。
なぜ、公共事業費以上に税収が増えるのかといえば、
「公共事業の乗数効果」(※ 常数効果 → 乗数効果 に修正しました 2015/07/06)
「税収弾性値」
という二つの要素が働くためです。(詳しくは藤井先生のレポートをご覧ください)

現在の日本は需要不足(デフレーション)であり、同時に財政が悪化しています。
公共事業を追加的に実施することで、デフレ脱却と財政改善が実現できることが、
少なくともシミュレートでは証明されているのです。

ならば、実際に実施し、「効果を確認しつつ」政策を推進すればいいわけでございます。

ところが、現実の日本政府はといえば、公共事業を抑制し、デフレ化と
財政悪化をもたらす緊縮財政路線を突き進んでいます。デフレ対策については日本銀行に丸投げし、
「量的緩和で期待インフレ率が上昇し、実質金利が下がれば、企業の投資は増えるはずだ」
「量的緩和による円安で株価が上昇すれば、家計の消費は増えるはずだ」
と、定量的に効果を測定することが不可能な「はずだ」政策に依存しています。

実質金利が下がれば、企業の設備投資は増加する「かも」知れません。
株価が上がれば、消費も増える「かも」知れません。

とはいえ、全く増えない「かも」知れないのです。
実質金利低下の効果や、株価の資産効果は、事前に金額を確定することは
不可能であり、GDPが何%成長するのか、この世の誰にも分かりません。

無論、他に方法が何もないならば、「かも」「はずだ」政策に頼るのも仕方が
ないのかも知れません。とはいえ、現実には定量的に効果測定可能な政策はあるのです。

この感覚、何なのでしょうか。なぜ、
「確実に効果が出るか、もしくは効果が測定可能な政策」
ではなく、
「効果が測定できない、もしくは効果がないかも知れない政策」
に安倍政権は傾注してしまうのでしょうか。

定量的に効果が測れる政策に背を向け、そうではない路線を邁進していっている以上、
そこには「ドグマ(教義)」あるいは「イズム(主義)」という、
現実と無関係の「考え方」があるとしか解釈のしようがないのです。

現在の安倍政権を支配しているドグマは、構造改革主義であり、
グローバリズムであり、財政均衡主義になります。(この三つは常に関連します)

ドグマやイズムは、別に理由などなく、
「そうだから、そう」という価値観である可能性が高いです。

だからこそ、厄介なのです。

ドグマやイズムに支配され、個人が減量に失敗したところで、大した問題にはなりません。
それに対し、日本国家の経済政策の場合は、1億2700万人が影響を受けるのです。

今週も最後までお読み頂き、ありがとうございました。

コメント数:2

  • 緊急なので、とりあえず、ご連絡します。
    6月25日付レポートにおいて、「乗数効果」の代わりに「常数効果」と記されていますが、「乗数効果」と記載されるべきではないでしょうか。きわめて重要な用語なので、あえて、ご連絡申し上げます。
     
    なお、、消費税増税と乗数効果との関係について、疑問があり、後日、ご教示をお願いしたいと考えておりますので、よろしくお願い申し上げます。

  • 最近、拝読させていただいているものです。
    大変ありがたい情報源を感謝しております。
    先生の乗数効果という記事の論旨には私としては「あるかも」の程度しかわかりませんが、これだけは感じております。

    「経済担当をされている方は、実験研究的な手法を知らない」ということです。
    私自身も経営をしておりますので、「失敗は命取り」です。
    自分の会社資産を最大限生かすための可能性など、誰も教えてくれません。だから、研究をするために「打診的に無駄打ち」をします。
    ここで問題となるのは、「効果の上がるまで時間のかかる計画は短期間では見つからない」ということです。
    この記事の根拠として「我が国の過去のデータを根拠として」とありますが、普通の理数系の考え方をするならば、その先例から「仮説を立てていく」わけですね。その仮説は研究者は当然「過去の論文を基に、こうなるであろう」ということを仮説としてたて、立証するために実践していくのが、私は科学的な運営だと思っております。

    そのような意味において、わが国には科学的に(いえ、論理的に)筋道を立てて経済(経世済民)を実践していく人材に乏しいのは、残念な限りです。
    先生のご活躍をお祈り申し上げます。

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