第64回「企業の利益とデフレ脱却」 2015年8月27日

さて、実体経済のマクロ指標であるGDP(実質GDP成長率)が
マイナスに落ち込み、実質賃金も対前年比下落が続いていますが、
なぜか企業収益だけが拡大しています。

黒田日銀総裁は、27日にNYで講演し、
日本企業の収益が過去最高水準にあることを受け、
「デフレ脱却に向けた動きはストップしていない」
と、演説しました。

「経済成長率のマイナス」と「企業収益過去最高水準」。
双方ともに事実ですが、黒田日銀総裁が言う
「デフレ脱却に向けた動きはストップしていない」
という結論は導き出せません。

三橋は、頻繁に、
「生産者がモノやサービスという付加価値を【生産】し、
顧客が消費・投資として【支出】(購入)し、【所得】が生まれる」
と、所得創出のプロセスについて説明します。

上記【生産】【支出】【所得】の合計は
生産面のGDP、支出面のGDP、分配面のGDPに該当し、
三つのGDPは必ず金額が一致します。
これを「GDP三面等価の原則」と呼びます。

という話は今更ですが、実は上記の【所得】とは、
大雑把に書くと企業の粗利益になります。
企業は粗利益から各種の費用(人件費、税金など)を支払います。

すなわち、給与所得や税金は、企業が稼いだ【所得】からの、
従業員や政府に対する分配なのです。

現在、【所得】の合計であるGDPはマイナス成長です。

それにも関わらず、
分配を終えた(=法人税を支払った)企業に残った【所得】、
すなわち企業収益(最終利益)は過去最高になっています。

これが、何を意味しているのか。

要は、所得の分配が歪んでいるのです。

全体の所得のパイ(=GDP)が増えていないにも関わらず、
従業員や政府などに対する分配が減った結果、
残った企業収益が最大化されたに過ぎないわけでございます。

すなわち、一般の従業員と、最終利益から分配(配当金、自社株買い)を
受けるグローバル投資家を含む株主との「所得の分配」が、
株主側に過度に傾いてしまっているわけでございます。

簡単に書くと、資本から所得を得る人々と、
実体経済から所得を得る人々との格差拡大です。

ピケティ風に書くと、まさに「r>g」というわけでございます。

国内の所得格差拡大は、デフレを深刻化させます。何しろ、
多数派である一般国民の所得は抑制され、購買力が高まりようがないのです。
すなわち、内需という最強最大の需要が伸びません。

さて、ここまで読み進め、
冒頭の黒田日銀総裁の発言について、どのように感じますか。

「日本企業の収益が過去最高」と「デフレ脱却」は、
方向が真逆である可能性があるわけで、
現実の日本では間違いなく「真逆」なのでございます。

中央銀行総裁という立場にある人が、この程度の認識なのですから、
我が国がデフレから脱却できないのも無理もありません。

今週も最後までお読み頂き、ありがとうございました。

コメント数:4

  • 先生の論理は、的を得たものと何時も感心しています。ならば何故政府の負債を国家の負債と胡麻化すのでしょうか?
    何故新自由主義路線をひた走るのか?
    誰が得するのでしょか?ご教授ください。

  • 企業収益が増えているのに、GDPがマイナスなのはどうしてかなと思っていましたので、先生の解説でからくりがわかりました。
    ありがとうございます。
    日銀黒田総裁の「デフレ脱却に向けた動きはストップしていない」というのは、誰にどういう目的で発せられたメッセージと解釈すべきでしょうか。単なる認識の不足だけでもないような気がするのですが。
    また、株主の(分配金取得の)権限が限りなく拡大していることに関して、何の規制も、または抑止になる要素もないのでしょうか? 経営者は、グローバル投資家・株主にこんなにも頭が上がらないものなのでしょうか? 素人の質問ですみません。

  • わかりやすかったです。
    流れ(金の)を追いかければ、見えてくるのだろう、ゆえに重要と思いました。
    今後も解説お願いします。

    グローバル投資家を含む株主に、その流れがたまるしくみは、意図的だろうと思いますので、
    これが変わることは、そうそう起きないのではないかとも思え、
    これが変化するのは、どのようなときだろうかと、想像いたします。

    政策変更、立法、政治で変化するでしょか?
    資本主義にあって、利益の分配を義務付ける。または、促すための法案とは、
    アイデアがございますでしょうか?
    利益に対する課税でしょうかね。

  • 経済学者や財務省のくさい口臭のかかったテレビのコメンテーターは難しい経済を、より難しく説明して自分たちの権威を上げる事に専念する・・
    三橋先生の著書を英訳してローレンス・サマーズやレイ・ダリオに読ませたら、きっと絶賛するはずです!

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