第63回「愕然とする現実」 2015年8月20日

先日、とあるシンポジウムで講演をさせて頂いたのですが、
自分の出番の前に四名(全員が官僚か元官僚)の方々の講演を拝聴することになりました。

愕然としてしまったのですが、
全員が全員、マクロ経済に対する認識を間違えていました。
マクロ的な情報把握ができていない結果、当然の話として
ソリューション(解決策)も意味不明なものにならざるを得ません。

例えば、酷かったのは、
「日本は女性が労働市場に参加すれば、経済成長する」
です。

ちなみに、三橋は別に女性が労働市場に参加するな、などと
言いたいわけではありません。とはいえ、上記の考え方が、
現時点では成立していない「セイの法則」を前提にしていることは疑いありません。

すなわち、女性や高齢者、あるいは外国人でもいいのですが、
新たに誰かが労働市場に参加すると、仕事が「自動的」に創出されるという話です。
仕事の奪い合いが発生しないインフレギャップ期、あるいは完全雇用期であれば、
「日本は女性が労働市場に参加すれば、経済成長する」
は成立する可能性が出てきます。

とはいえ、デフレギャップ期には単に「他の人と雇用を奪い合う」ことになるだけの話です。
要は、インフレギャップ期とデフレギャップ期の区別がまるでついていないのです。

あるいは、
「日本の人口が半分になれば、公共インフラも半分で済む」
と、失神しそうになるほど間違ったことを主張している人もいました。

日本で「より速いペース」で減少しているのが、
生産年齢人口であるという現実を理解していません。

生産年齢人口が総人口を上回るペースで減少し、
生産年齢人口対総人口比率が低下していっている以上、
我が国で発生する問題は「需要不足」ではありません。
「供給能力不足」です。

日本は近い将来、経済がインフレギャップ化し、供給能力不足に
悩まされることになります。供給能力不足を埋めるためには、生産性向上が必要です。

そして、最も生産性向上効果が高い「投資」が、公共インフラに対する投資なのです。
日本は人口が減るから、公共投資が不要なのではありません。
生産年齢人口対総人口比率が低下していくからこそ、生産性向上のための
公共投資を拡大しなければ、将来的にはインフレ率が限度を超えて上昇していくことになります。

インフレギャップ期とデフレギャップ期は異なる局面。
日本は「人口減少社会」ではなく「生産年齢人口対総人口比率の減少社会」に突入している。

この二つを国民や政治家、あるいは官僚が理解するだけで、
相当に世の中が変わっていくと思うのですが、現実は厳しいです。

というわけで、三橋は自分の講演の冒頭に
「先ほど、四名の人生の先輩の講演を拝聴したのですが、
 全員が全員、マクロ経済に対する認識を間違えていました」と容赦なく
指摘させて頂き、正しい情報をインプットさせて頂いた次第でございます。

相当に嫌われたでしょうが、
まあ、間違っているものは間違っているので、仕方がありません。

今週も最後までお読み頂き、ありがとうございました。

コメント数:4

  • 講演会の先生方の論旨の背景認識に差があるような気がします。
    単純な背景 環境に置き換えて議論するのなら間違いか間違いでないことは明確に指摘できますが、複雑な変化を織り込むと単純に決めつけることはできないのではと思います。
    マクロ経済認識だからこそ、その大きな動きやうねりを織り込んだ上で高齢化や少子化対策に女性の活用をすることは、たとえデフレだろうとインフレだろうとも必然であります。
    若年労働力は確実減少するとなと生産年齢人口対策で若年女子活用や高齢健常者の活用は当然の帰結となります。その面でのアプローチや政策がどうなんでしょうか?
    rshimizu

  • 四名の人生の先輩と傍聴者の方々が、三橋先生の話を聞いて
    今までの考えに疑問に感じ、又 ”なるほど” と思い
    興味を持ってくれることを願います。
    多勢に負けず、煙たがられても正しい事を叫び続けてください。
    気づく人が必ず居るはず、居なくては!
    応援しています。

  • 若者の完全雇用が達成されて、尚且つ生産人口が不足しているのであれば、通用する話と思いますけれども、小生は基本的に女性が働くことには反対なので賛成できかねます。本当に視聴者を馬鹿にしたその場限りのいい加減なことを言う似非専門家が多すぎ、恥ずかしいと思わないのですかね。三橋貴明と論が張れるよう勉強しろと言いたくなる。

  • 全員が官僚か元官僚かどうかなんてことは、どうでもいいことです。
    単純に「日本は女性が労働市場に参加すれば、経済成長する」という論旨の是非について考えてみます。

    三橋先生の言うとおり、日本のインフレギャップ化が進展すれば「供給不足」に陥るので、労働人口の再配分の中で女性や高齢者の活用が進み、経済成長を下支えすると言えるのではないでしょうか。

    経済成長の原動力の一つに「生産性の向上」があり、日本では未だ女性の社会進出が男性並みではなく、優秀な女性の能力が活用されていないという前提を置いてみましょう。仮にインフレギャップかデフレギャップかという前提を置かず、フラットトレンドで考えても、馬鹿な男性の20%が優秀な女性に置き換われば、生産性が向上して経済成長する可能性があります。この場合、馬鹿な男性の雇用は確かに奪われますが、人材の適材適所という観点では正しい判断と実行の結果と言えます。一時的に男性の失業率が増えるかもしれませんが、経済成長に伴い、馬鹿な男性でも雇用機会が増えてきてソフトランディングできると思います。

    ただし、益々日本女性の晩婚化と少子化が進むことになりますので、長い目で見れば経済成長が鈍化してシュリンクしていくことに対処する必要があります。特に生産年齢人口の回復に即効性と遅効性の両面で効果的なのは「日本版移民政策」だと思います。つまり国際結婚を前提として日本国籍を取得した移民を増やすことが、少子化対策にも有効だと思います。

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