第47回「続 技術開発投資」 2015年4月30日
前回、超伝導リニアモーターカーの技術を用いた山梨リニア実験線の
実験車両が、時速600キロを突破したニュースを取り上げましたが、
不思議なことに似たタイミングで、同じく超伝導リニア技術を用いた
高速加速器に関し、国際研究者たちによる視察が行われました。
岩手県東半部を中心に、青森県から宮城県まで広がる「北上山地」が、
世界最大の直線型高速加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の
建設候補地として、今、注目を浴びているのです(世界から)。
高速加速器は、超伝導の「磁力」により電子、陽電子を光速まで加速し、
衝突させることで発生するエネルギーを観測することで「宇宙開闢の謎」に
迫るという、スケールが大きい「世界最大の超精密機器」になります。
最長50キロメートル強に並べられ、接続された超伝導加速器の中の空間を、
高さ5ナノメートル(10億分の5メートル)の超平行ビームが通り、
中央の計測器部分で衝突するわけで、振動が少ない固い地盤が必要になります。
車の振動が伝わるだけでも、ビームがずれ、衝突は不可能になってしまうのです。
というわけで、岩手の北上山地、具体的には一関市から奥州市に渡る地域が、
花崗岩の一枚岩が南北に延び、ILCの建設地として適していることが
確認されました(厳密には二枚の花崗岩がガッチリと繋がっているようですが)。
しかも、北上地域は近隣都市や既存の町へのアクセスが良く、分散居住が可能です。
既設のインフラを用い、世界中から集まる研究者たちの居住空間を確保することが可能なのです。
さらに、冷涼な気候であり、公害がない清涼な環境が維持されており、
「世界最先端の研究機関」が設置されるには、十分すぎるほどに条件を満たしています。
4月23日、海外の素粒子物理研究所の広報担当者たちが、
ILCの建設候補地となっている一関市などを視察しました。
ドイツ電子シンクロトロン研究所のバーバラ・ワームベイン氏は、
「国際的研究者が世界中の候補地を見て、北上サイトが一番適切な所とした
判断を信用している。私も実際に見て、いい所だと感じた。
今後、物理化学者向けのニュースレターで発信していく」
と、北上地域に関する感想を述べています。
上記、ILCの建設は、典型的な技術開発投資になります。
建設コストは、おおよそ1兆円ですが、「確実に成果が出るのか、保証しろ」と
いわれても、誰もできません。公益社団法人日本生産性本部は、ILCの
建設効果を30年間で計44.7兆円にも達すると試算していますが、
これも「100%確実」というわけではないのです。あくまで「試算」です。
それでは、1兆円のコストを惜しみ、人類の文明の貢献し、様々な
派生技術が開発される可能性が濃厚なILC建設を「ムダである」と取りやめますか?
「いや、それでもやってみよう」
と、過去の人類が様々な技術開発投資を実施してきたからこそ、
現在の人類文明の進歩があったということを、今を生きる
日本国民は理解する必要があると思うのです。
今週も最後までお読み頂き、ありがとうございました。