第89回「財務省と「いわゆるリフレ派」」 2016年2月25日
三橋がこれまで、一番、仰天したのは、ある国会議員(元・財務官僚)に、
「財務省では『三橋貴明番』、『高橋洋一番』などの業務があり、
三橋さんたちの言論を毎日、こまめにチェックしています」
との話を聞いたときです。本件は本日のブログにも書きましたが、
実はこの話には続きがありまして、彼の議員は、
「実は、自分がまさに『三橋番』だったのですが、毎日、三橋さんのブログなどを
チェックしているうちに、財務省にいるのがバカバカしくなって自民党から立候補しちゃいました」
と、語ったのでございます。
まあ、リップサービスかも知れませんが、
三橋が東京の極めて便利な所に住んでいるにも関わらず、
決して電車で移動しようとはしない理由がお分かり頂けるのではないでしょうか。
これは別の方から伺ったのですが、財務省は例えば「消費税増税」といった省益に
かなう(厳密には財務官僚の出世に貢献する)政策を推進する際には、何と300人体制で
政治家、新聞記者、財界人、評論家、コメンテータ、各界の有力者に「ご説明」に回ります。
物量作戦で「言論」を支配し、消費税増税といった国民に不利益を与える政策を
実現しようとするのです。(ちなみに、三橋のところに「ご説明」は来たことがありません)
もっとも、財務省がどれほどパワーがあろうとも、
デフレ環境下で国民が貧困化すると、政治家はデフレ対策を求めてきます。
デフレとは総需要の不足という経済現象ですから、財政出動による需要創出が必要です。
また、当然ながら民間最終消費支出や民間住宅といった
「需要」を削り取る消費税増税はご法度になります。
というわけで、2012年に、
「財政出動は決してしたくない。消費税も増税したい」
と切望する財務省が、デフレ対策を要求する政治家を「躱す」
ソリューションとして登場したのが、岩田規久男教授(現、日本銀行副総裁)を
代表とする「いわゆるリフレ派」だったと、今では確信しています。
何しろ、岩田先生の理論を簡略化すると、
「マネタリーベースを拡大すれば、デフレ脱却できる」と、
全てを日銀の委ねることが可能になるのです。
すなわち、消費税増税や政府支出削減といった緊縮財政と、
デフレ脱却を「両立できる」という話になってしまうのでございます。
というわけで、
「デフレは貨幣現象。おカネを発行すれば、解決できる」
「変動相場制の国では財政出動は、マンデルフレミングモデルにより意味がない」
「公共投資の拡大は、供給制約により不可能」
などなど、デフレ対策を日銀に丸投げし、同時に公共投資を中心とした
財政出動を「否定」する言説が、日本社会で拡散されました。
結果、消費税は増税され、公共事業は民主党政権期以下に
減らされ、介護報酬も2.27%削減。公的固定資本形成も、2015年に
3000億円削減され、次は診療報酬を削られることになります。
完璧な緊縮財政が、現時点でも進行中です。
デフレ対策を丸投げされた日本銀行は、
量的緩和やマイナス金利政策など、あらゆる手段を尽くしましたが、一向に消費や
投資といった需要は増えず(当たり前です)、追いつめられた格好になりました。
結局、岩田先生をはじめとする「いわゆるリフレ派」は、デフレ対策における
財政出動の重要性を引き下げることで、財務省の緊縮財政推進に手を貸した、
という話なのです。もちろん、本人たちが意識していたとは思えませんが。
もっとも、現実はあまりにも厳しく、黒田日銀総裁の、
「マネタリーベースそのもので直ちに物価、あるいは
予想物価上昇率が上がっていくということではない」
(2月23日 衆院財務金融委員会)
発言からも分かる通り、いわゆるリフレ派の敗北が
決定的に明らかになってしまいました。政府が緊縮財政をしているデフレ国で、
金融政策のみでデフレ脱却を果たすなど、できるはずがなかったのです。
というわけで、日本政府を「財政出動による需要創出」という
正しいデフレ対策に向かわせるためにも、2012年以降の我が国において
「いわゆるデフレ派」が果たした(果たしてしまった)役割を、今、正しく理解する必要があるのです。